人事制度・育成戦略
文責: 日本CTO協会 貝瀬岳志
なぜ”人事制度・育成戦略”は重要か
適切な人事制度や育成戦略は、企業や組織の生産性や利益を向上させることができるとともに、従業員のモチベーション向上や離職率の低下にもつながる重要な要素です。逆説的に言えば、不適切な人事制度や育成戦略の実施は、従業員のモチベーション低下や離職率向上にもつながってしまいます。
新たな人事制度の導入や既存制度の大幅な変更を人事部門が主導することもありますが、現場でプロダクト開発やDXに従事する従業員の視点を疎かにしてはいけません。
”人事制度・育成戦略”とはそもそも何か
人事制度とは、企業や組織において従業員に関する規定や手続きを定めたルールのことです。具体的には、人事評価制度、昇進・昇給制度、退職金制度、労働時間・休暇制度、福利厚生制度、教育・研修制度などが挙げられます。
特に、給与や報酬に関わる各種制度(人事評価制度、昇進・昇給制度など)への不満は、従業員の退職理由の一つにも挙げられることが多いため、注意が必要です。
”人事制度・育成戦略”を代表するプラクティスの解説
プロダクト開発に関わる従業員一人あたり年間12万円(月額1万円)以上の教育研修予算があるか。
プロダクト開発には高度なスキルが必要なため、常に学習しつつける必要があります。会社として提供する集合型研修のほか、従業員自らが能動的に学習できる予算を確保しておくのも良いでしょう。例えば従業員一人当たり年間12万円予算を確保するだけでも、専門書の購入や、安価な外部研修に参加することができるようになります。学習によるスキル獲得だけでなく、従業員のモチベーション向上も期待できます。
専門職向けのジョブ型人事制度があり、管理職と同等かそれ以上の給与で従事しているメンバーが存在するか。
ジョブ型人事制度と比較されるものとしてメンバーシップ型人事制度がありますが、これは人に対して賃金を決定する評価制度です。一方、ジョブ型人事制度とは簡単に言えば、職務に対して給与を決定する評価制度です。ジョブ型人事制度では、職務内容や求めるスキル、給与などがジョブディスクリプション(職務記述書)として定義する必要があるため、専門職の評価・育成に適しています。中途採用と同様の考え方を自社の人事評価にも活用していると捉えればイメージしやすいでしょう。専門職はどの会社でも通用するスキルを保持していることが多いことから、優秀な人材であるほど社外への流出リスクが高まります。自社の管理職以上や中途採用市場と比べて給与を決定することが望ましいでしょう。
リモートワークやフレックスタイムなどの柔軟な働き方を導入しているか。
リモートワークやフレックスタイムなどの柔軟な働き方を導入することで、次のようなメリットが得られます。従業員自身が活動のピーク(フロー状態)に合わせて働けるため、生産性の向上が見込まれます。従業員自身がワークライフバランスをコントロールできるため、ストレスの軽減やモチベーションの向上に繋がります。
エンジニアやデザイナーなどをはじめとする専門職は多くの場合、バックオフィス職や営業職の従業員に比べ、業務時間や執務スペースを他者の都合に合わせる必要がありません。全社導入が難しい場合、一部の職種や部門に限定した部分導入を検討してみても良いでしょう。
”人事制度・育成戦略”はどのようにして測定するか
プロダクト開発やDXを推進するカギとなる専門職ですが、採用・育成には膨大なコストと時間がかかります。さらに、専門人材の採用・育成を戦略的に行う上では、リーダーの存在も欠かせません。人事制度・育成戦略の進捗を測る上でまず必要なのは、将来必要となる専門人材およびリーダーのスキルセットを定義し、理想的な採用・育成計画(To-be)を策定することです。To-beと現在の状態(As-is)のギャップを測定することで、人事制度や採用・育成戦略の課題が明らかになります。To-beとAs-isのギャップを定期的に測定して、制度・戦略の見直しに活用しましょう。
”人事制度・育成戦略”で陥りがちなアンチパターンとはどういう状況か
従業員を取り巻く労働環境や、職務遂行に必要となるスキルセットは、市場環境の変化に合わせて刻一刻と変化します。人事制度や育成戦略の策定がゴールではなく、市場環境の変化に合わせた見直しが必要不可欠です。アンチパターンを避けるためには自社内だけでなく、業界や競合の動向にも目を向けましょう。