ユーザビリティテスト
文責:梅林良太
"ユーザビリティテスト"はなぜ重要か
顧客の使い勝手の評価を、数値的に裏付けを持って改善することで、思い込みをもってしまいやすいデザインの分野においても数値による評価を行うことができます。
ユーザー調査と異なり、ニーズの検証ではなく、ある程度動作する製品やプロトタイプに対しての使いやすさ・使いごこちを評価していきます。
ユーザビリティテストを正しく運用することで、ユーザーインタフェースにおける問題を早期に発見し、製品を使用する際の離脱要因を減らすことができます。
開発中はもとより、製品をリリースした後にも定期的にメトリクスを計測することで、製品を健全な状態に保つことができます。
ユーザビリティ≠使いやすさ
ユーザビリティとはユーザにとって「あれば嬉しいけど、なくても困らない」というレベルの要求であると誤解してしまうことがあり、優先順位を下げてしまうことがあります。ユーザから使いモノにならないと見捨てられないためにもユーザビリティは「使用可能性」であると理解することが望ましいです。
ユーザビリティの定義
国際規格 ISO9241-11:2018では、ユーザビリティを「特定のコンテキストにおいて、特定のユーザによって、ある製品が、特定の目標を達成するために用いられる際の、効果、効率、ユーザの満足度の度合い」と定義しています。
ユーザビリティをテストするためには
利用を想定しているユーザ、利用状況、目標を特定した上で、効果・効率・満足度という3つの尺度を用いて評価します。
ISO9241の定義に従えば、これら3つの尺度を全て満たして初めてその製品はユーザブルであるといえることになりますが、実際にはそれは簡単なことでは無いため、現実的には原則としてまずは効果問題から解決に取り組んで、後は時間とコストの制限の中で、なるべく多くの効率問題や満足度問題を解決するアプローチになります。
尺度を計測するための方法は多数あるため、プラクティスの利用やアンチパターンを避けることが効果的です。
"ユーザビリティテスト"を代表するプラクティス
ユーザビリティテストは、ユーザーがソフトウェアを効果的かつ効率的に使用できるか評価するための方法で、主に次の2種類に分類されます。
- 定性的テスト
- 特定のUI要素における被験者の振る舞いを直接観察・評価し、問題のある要素を特定する方法
- 定量的テスト
- 重要機能のタスク成功率、タスク実施時間、学習効率などのパフォーマンス指標を計測し、またユーザビリティへの認識(アンケートや投票などの自己申告メトリクスを含む)を基に、UIデザインを間接的に評価する方法
実際のリリース後も、入力エラーやタスク時間などの定量的指標を継続的に計測し、印象を含めた満足度のテストを実施することが重要です。
重要機能のタスク成功率/タスク実施時間/学習効率などを計測しているか
重要機能のタスク成功率、タスク実施時間、学習効率などを計測することは、アプリケーションやシステムのパフォーマンスを評価し、ユーザー体験を向上させる上で非常に重要です。
タスク成功率は、ユーザーが目的を達成できる割合を示します。これを測定することで、システム上の障壁や改善点を特定し、ユーザビリティを向上させることができます。また、タスク実施時間は、ユーザーがタスクを完了するのに要する時間を表し、システムの効率性や使いやすさを評価する上で有益です。
さらに、学習効率は、ユーザーがシステムの機能を理解し、利用できるようになる速さを示します。これを測定することで、システムの習得が容易であるかどうかを評価し、必要に応じて教育やサポートを改善することが可能です。
これらの指標を定期的に計測し、分析することで、システムの効果的な改善が行われ、最終的にはユーザー満足度の向上に繋がります。そのため、これらの指標を適切に計測し、改善プロセスに活用することが重要です。
実際のリリース後も入力エラーやタスク時間などを計測しているか
リリース後も入力エラーやタスク時間などを計測することは、システムのパフォーマンスやユーザビリティを継続的に監視し、最適化する上で非常に重要です。
入力エラーの計測によって、ユーザーが操作に苦労している箇所や不具合が発生している部分を特定し、改善策を立てることができます。これにより、ユーザー体験の向上やシステムの信頼性を高めることが可能です。
また、タスク時間の計測は、ユーザーが目的を達成するまでに要する時間を把握することができます。これを継続的に監視することで、システムの効率性や使いやすさを評価し、適切な改善策を実施することができます。
リリース後の継続的な計測は、システムの現状を把握し、問題が発生した際に迅速かつ適切な対応ができるようにするために重要です。また、ユーザーの利用状況や傾向を理解し、システムを適切に最適化することで、ユーザー満足度を向上させることができます。リリース後の計測を継続的に行い、システム改善に役立てることが求められます。
自己申告メトリクスなどを用いて、印象を含めた満足度のテストをおこなっているか
自己申告メトリクスを用いて印象を含めた満足度のテストを行うことは、ユーザー体験の評価やシステム改善において重要な要素です。
自己申告メトリクスは、ユーザー自身がシステムに対する満足度や感想を報告する方法です。これにはアンケートやインタビューなどが含まれ、ユーザーの主観的な意見や感情を直接把握することができます。
このような評価手法を用いることで、ユーザーがシステムに対してどのような印象を持っているか、どの機能や要素が満足度に影響を与えているかを明らかにすることができます。また、定性的な情報を収集することで、システム改善の方向性やユーザーの期待に応える施策を策定することが可能です。
自己申告メトリクスを活用した満足度のテストは、システムの使いやすさや機能の改善だけでなく、ユーザーが抱く印象や感情に基づく評価も考慮に入れることができるため、ユーザー体験の全体像を把握し、より効果的な改善を行う上で有益です。
"ユーザビリティテスト"で陥りがちなアンチパターン
思い込み(バイアス)を持って質問項目を用意したり、事前に説明をしてしまうことで、ユーザがテストの前に学習してしまうなど、正しい結果が得られないことがあります。
検出された(些細な項目を含めた)全ての問題を解消しようとする状態も陥りがちですが、ユーザ体験の向上においては、ユーザがゴールに到達するまでに良く通る経路(重要な経路)の問題点を集中的に取り除くようなアプローチが推奨されています。
ユーザビリティテストを実施する人数については、少なすぎるのは問題ですが、必ずしも多いほど良いわけではありません。Nielsen Norman Groupの調査では、5人の被験者で十分な結果が得られることが示されています。
ユーザー調査(何が課題かの発見)とユーザビリティテスト(使い心地が良いか、どのような印象を抱いたか)を区別せず同時に行ってしまう
ユーザー調査とユーザビリティテストは、それぞれ異なる目的と手法を持つため、区別せず同時に行うと効果的な結果が得られないことがあります。
ユーザー調査は、ユーザーのニーズや課題を明らかにすることを目的としており、アンケートやインタビューなどを用いて、ユーザーの意見や感想を収集します。これにより、システム開発や改善の方向性を決定することができます。
一方、ユーザビリティテストは、システムの使い心地や印象を評価することを目的としており、実際のタスクをユーザーに実施させることで、操作性や理解性を検証します。これにより、システムの具体的な改善点を特定することができます。
両者を区別せず同時に行うと、調査結果の解釈が困難になり、改善策の立案も曖昧になることがあります。効果的な結果を得るためには、まずユーザー調査で課題を特定し、次にユーザビリティテストで具体的な改善点を明らかにするという、段階的なアプローチが望ましいです。
事業KPIとの関連の薄い些細な項目ばかりに時間を使ってしまう
事業KPIとの関連性が薄い項目に焦点を当てることで、本来の目的から逸れてしまい、システム改善が効果的に進まない可能性があります。
ユーザビリティテストを実施する際には、事業KPIとの関連性を考慮し、重要な課題に注力することが重要です。これにより、システム改善が事業成果に直接つながるような取り組みができ、ユーザビリティの向上に効果的に寄与することが可能になります。
3名以下の少なすぎるユーザビリティテスト対象者の結果に振り回されてしまう
ユーザビリティテストの対象者が3名以下と少なすぎる場合、その結果に振り回されることが問題となります。
少ない対象者数では、個人の意見や偏見が結果に大きく影響し、客観的な評価が得られにくいため、システム改善が効果的に行われない可能性があります。また、限られたユーザー層からのフィードバックだけでは、多様なユーザーのニーズを十分に把握できません。
ユーザビリティテストを実施する際には、対象者数を適切に設定し、多様なユーザーからの意見を収集することが重要です。例えば、Nielsen Norman Groupの調査では、5人のユーザーで大半の問題が特定できるとされています。適切な対象者数を確保することで、より客観的で信頼性の高い結果が得られ、効果的なシステム改善に繋がります。
ユーザビリティテストのクライテリア
参考文献
- 樽本徹也『ユーザビリティエンジニアリング(第2版) ―ユーザエクスペリエンスのための調査、設計、評価手法―』オーム社、2014。
- 株式会社イード リサーチ事業本部 “UIデザインの指標・ユーザビリティとは”, u-site.jp, 2023