ユーザーインタビュー
文責: 日本CTO協会 貝瀬岳志
なぜ”ユーザーインタビュー”は重要か
顧客に継続的に価値を提供し続けるためには、優れた製品やサービスを生み出し、維持し、かつ継続的に改善していく必要があります。時には製品やサービスの一部を終了する判断を行うこともあるでしょう。このサイクルを適切に回していくために、顧客が何を求め、何に価値を感じるのかを把握することが不可欠です。ユーザーのニーズを理解することなく、提供する側の思い込みで製品開発や営業などの企業活動などを行っていても、それらは徒労に終わってしまうことでしょう。ユーザーの本質的な欲求を見出す方法のひとつ、それがユーザーインタビューです。
例えば、新しいサービスのアイディアを思いついたとしましょう。Time to Marketが短縮化された現代では、デリバリーしてからユーザーの反応を見ることもできるように思えます。ですが、市場にサービスを投入し、ユーザーに影響を与えてから方向性を調整することになれば、結局、それが高速化の阻害要因になってしまいます。ユーザーインタビューによって、アイディアに関する仮説をできる限り事前に検証しておくことで、より早い価値提供に繋げることができるのです。市場投入後も検証は続きますが、その際には、既存のプロダクトをよりブラッシュアップという別の目的を持つことになるでしょう。
”ユーザーインタビュー”とはそもそも何か
ユーザーインタビューとは、自らの持つ仮説を検証するために、ユーザーと交わす問いと答えの一連の流れです。前述の通り、ユーザーが持っている真の課題やニーズを学ぶための手法と位置付けられます。
この「ユーザーから学ぶ」という姿勢は、プロダクト開発において特に重要で、プロダクト開発のすべての段階で実施可能です。持っているアイディアが市場に受け入れられるか、検討しているソリューションは正しくユーザーの課題解決につながるか、プロダクトリリース後にユーザーの行動がどのように変化したのかを常に検証しなければ、価値を提供し続けることができないからです。
想定しているユーザーに「この仮説は正しいですか?」と問いかけるだけで答えが出るほど簡単なものではありません。よく計画された質問と進行によって、初めて意味のある検証を行うことができます。自分たちが優れたアイディアだと思っていたものが、そうでもないことが判明することもあります。ユーザーが必ず必要とすると考えていたサービスが、まったくの検討外れだとわかることもあるでしょう。検証の結果、そのようなことが事前にわかるのは、自説の確からしさが証明できるのと同じくらい意味があることです。
優れたユーザーインタビューでは、ユーザーが意識しているニーズだけではなく、潜在的に持っているニーズ(インサイト)を見出すことも可能です。対話を通して、参加者が思ってもみなかった体験を共有してくれることがあります。そのようなユーザーインタビューの結果を各関係者と一緒に分析すれば、認識できていなかった課題を見出し、効果的な打ち手に繋げることができるでしょう。
”ユーザーインタビュー”を代表するプラクティスの解説
ユーザーインタビューが、高速な仮説検証、情報に基づく判断、打ち手の実施というサイクルの一部分であることを忘れてはいけません。ユーザーインタビューの計画実施は短期間で行い、素早く分析に移りましょう。
また、ユーザーから価値ある情報を得るためには、質問の内容だけではなく、インタビュー全体の構成にまで気を配る必要があります。
ユーザーインタビューの実施のための稟議やフローは軽量で、一ヶ月以内に行うことができるか。
前述の通り、ユーザーインタビューを時間のかかる重厚なプロセスにするべきではありません。時間をかけて仮説を検証しても、そこから導出した打ち手を実施する段になって、集めた情報が時間経過と共に陳腐化しているようでは意味がないからです。
「ユーザーから何を学びたいのか」を常に意識していれば、ユーザーインタビューの適切な対象や方式は、比較的短期間で決定可能です。必要なタイミングを見極めたらすぐにユーザーインタビューを実施できるように、ある程度まとめてかかる費用を予算に組み込んでおくことも検討すると良いでしょう。
インタビュー結果のインサイトをまとめて、共感マップなどを作成しているか。
ユーザーインタビューを行っただけで、何となく知見を得たような気になって満足してしまうことがままありますが、それでは情報を十分に活用することができません。得られた情報を分析・抽象化し、真のユーザーニーズを探求しましょう。
ストーリーボードや共感マップに代表される成果物を作成し、関係者に共有すれば、そこから新しい視点からのインプットが得られることもあります。
インタビュー参加者が話しやすい雰囲気作りのための工夫がインタビュースクリプトに組み込まれている。
ユーザーインタビューの実施者は、参加者がリラックスしてインタビューに臨めるよう心配りをしましょう。
例えば、いきなり相手を身構えさせるような、複雑な質問をするのは避けるべきです。ちょっとした雑談のような会話から始め、深く考えなくても答えられるような軽い質問を通して信頼関係を築いてから、徐々に核心に近づけるように、質問のシナリオを組み立てます。
”ユーザーインタビュー”はどのようにして測定するか
ユーザーインタビューは仮説検証の手段のひとつですが、ユーザーインタビュー自体の検証はどのように行えば良いのでしょうか。実施することで正しい情報を得られたのか、情報を適切に解釈できたのか、それに対する打ち手は妥当だったのかをトラッキングできれば、ユーザーインタビューそのものの品質を測定することが可能です。
具体的には、ユーザーインタビュー後に洗い出した要求や課題を、製品・サービスの要件として定義する際に、両者のつながりを記録します。リリース後の効果検証の結果とそれらをマッピングすれば、想定した効果が得られなかった時に、何が原因だったのか発見しやすくなるでしょう。
”ユーザーインタビュー”で陥りがちなアンチパターンとはどういう状況か
参加者に協力してもらってユーザーインタビューを行うからには、情報を効率良く集めたいものです。ただ、仮説を実証しようとするあまり、誘導的な質問や、YESかNOかで答えるような広がりのない質問ばかりになってしまっては意味がありません。ユーザーの真のニーズを知るために、よく訓練された質問者が臨機応変にインタビューの内容を微調整できるようにしましょう。
また、インタビューさえ行えばユーザーが何らかの示唆を与えてくれるというわけではないので、仮説もなしに何となく実施することは避けましょう。どんな仮説をどのような質問を通して証明するのかをきちんと計画し、得られた情報はからどんな打ち手が考えられるのかを主体的に考えることが大切です。
”ユーザーインタビュー”のクライテリア:
参考文献
- アラス・ビルゲン, C.トッド・ロンバード, マイケル・コナーズ『プロダクトリサーチ・ルールズ 製品開発を成功させるリサーチと9つのルール』ビー・エヌ・エヌ、2022。