モダンなITサービスの活用
モダンなITサービスの活用はなぜ重要か?
簡単に言うと、モダンなITサービスの活用は「最新の道具を使って業務効率を上げること」です。オフィスワークで考えてみましょう。昔は書類を手書きで作成し、コピー機で複製し、郵送していました。今ではパソコンで作成し、クラウドで共有し、電子承認で決裁します。同じ仕事でも、道具が進化すれば効率は劇的に向上します。企業のITサービスも同じです。オンプレミスのレガシーシステムからクラウドSaaSへ移行し、社内独自開発からデファクトスタンダードのツール活用へシフトし、紙とハンコの文化からワークフローツールへ転換することで、業務効率が大幅に改善され、従業員の満足度も向上するわけです。
もう少し正確に言うと、モダンなITサービスの活用は、従業員の生産性、業務の自動化、システムの保守コストに直接影響を与える重要な要素です。Microsoft 365やGoogle Workspaceのようなクラウド上での共同編集ツール、ZapierやMakeのようなiPaaSが典型例です。SalesforceやkintoneといったデファクトSaaS、Slackやスマートフォンでのアクセスによるモバイルワーク環境は、リモートワークやDXの基盤となります。一方、日本企業では依然としてサポート切れの古いOSやブラウザを使い続けたり、決裁書類がワークフローツールだけで完結せずに紙とハンコが必要だったり、業務システムにAPI連携機能がなく手作業でデータを転記したりする非効率な状況が残っています。これが従業員のストレス、離職、業務の属人化、セキュリティリスクの原因となっています。
具体的には、GitHubやAutomatticといったリモートファーストの企業では、全ての業務がクラウドSaaS上で完結し、スマートフォンからも会社のツールにアクセスでき、決裁はワークフローツールだけで完了し、システム間連携はAPIで自動化されています。たとえば、GitHubでは表計算やプレゼン資料は全てGoogle Workspace上で共同編集され、議事録もリアルタイムで複数人が編集し、承認プロセスも全てオンラインで完結します。また、ZapierやMakeのようなiPaaSを活用し、SaaS間の連携を自動化することで、手作業でのデータ転記を排除し、業務効率を大幅に向上させています。一方、日本の大企業では、業務に合わせて社内システムを独自開発し、その結果として保守コストが高騰し、変更が困難になり、デファクトSaaSに業務をフィットさせる機会を逃しているわけです。
デファクトSaaSと業務フィット戦略
モダンなITサービス活用の核心は、業務をツールに合わせることで、開発・保守コストを削減し、常に最新機能を利用することにあります。
デファクトSaaSの選定においては、社会課題としてすでに解決策があるもの、コスト削減や管理を目的とした業務については、社内システム開発ではなくSaaSの利用を推奨します。売上や利益の増大を生み出すもの、自社事業の競争優位につながるものについては、独自にシステム開発することが戦略的に正しい選択となります。Salesforce、kintone、Workday、Concur、freeeなどのデファクトなSaaSで実現できないかをまず検討し、競争領域と非競争領域を明確に区分することで、限られたリソースを効果的に配分できます。
業務プロセスのリエンジニアリングも不可欠です。既存の業務フローに合わせてパッケージソフトをカスタマイズするのではなく、SaaSの標準機能に業務をフィットさせます。提供されているサービスのAPIを使った連携開発は許容されますが、ソフトウェア本体のカスタマイズは避けます。カスタマイズすると、保守コストが高騰し、バージョンアップが困難になり、結果として技術的負債が蓄積します。業務フローの変更には従業員の抵抗が予想されますので、経営層が明確に方針を示し、なぜSaaSに合わせるのか、それが組織にどんなメリットをもたらすのかを丁寧に説明することが重要です。
iPaaSとLow Code系ツールの活用により、事業部主体でBPR活動を推進できます。Zapier、Make、Workato、kintone、Power Automate、AppSheetなどを導入し、SaaS間のデータ連携を自動化します。たとえば、Salesforceの商談情報をSlackに通知する、Google Formsの回答をスプレッドシートに自動転記する、GitHub Issuesの更新をJiraに反映するといった連携を、エンジニア以外の事業部メンバーでも実現できるようにします。ツールを導入するだけでなく、事業部門が主体的に業務改善に取り組む文化を作ることが重要です。
最新技術基盤の維持
モダンなITサービスを効果的に活用するには、最新のOS・ブラウザ・デバイスを維持し、技術的負債を蓄積しないことが重要です。
最新のOS・ブラウザの使用により、セキュリティリスクを最小化します。社内の全システムが最新のOS(Windows 11、macOS最新版、最新のLinuxディストリビューション)と最新のブラウザ(Chrome、Edge、Firefox、Safari)で動作することを確認します。サポート切れの古いバージョンのOSやブラウザでしか動作しないツールがある場合は、ツールの更新またはリプレースを計画します。ERPの一部機能が古いブラウザでしか動作しない場合は、ベンダーに対応を要求するか、別のSaaSへの移行を検討します。レガシーシステムの刷新には時間とコストがかかりますが、セキュリティリスクと従業員の生産性低下を考慮すると、投資対効果は高いです。
クラウド上での共同編集環境の整備も、モダンなワークスタイルの基盤です。Microsoft 365やGoogle Workspaceを導入し、ExcelやWordではなくExcel Online、Google Spreadsheet、Google Docsなどのクラウドツールを標準とします。Dropboxなどのクラウドストレージ上にExcelやPowerPointのファイルを共有するだけでは、同時編集ができず、バージョン管理が煩雑になります。クラウド上で複数のユーザーがリアルタイムに共同編集できることが重要です。クラウドツールへの移行は、従来のExcel文化に慣れた従業員にとって抵抗がある場合がありますので、段階的な移行と、十分なトレーニング、サポート体制の整備が必要です。
モバイルデバイスからのアクセス環境も、現代の働き方には不可欠です。従業員に会社支給のスマートフォンを貸与するか、BYOD(Bring Your Own Device)として個人のスマートフォンから会社のツールにアクセスできるようにします。メール、予定表、コミュニケーションツール(Slack、Teams)、ドキュメント、承認ワークフローなどを、スマートフォンアプリやモバイルブラウザから利用できるようにします。セキュリティ対策として、MDM(Mobile Device Management)の導入、二要素認証の設定、リモートワイプ機能の整備などが必要です。
ワークフロー自動化と紙文化の廃止
モダンなITサービス活用の重要な成果の一つが、承認プロセスのデジタル化と業務の自動化です。
ワークフローツールによる決裁の完全デジタル化により、リモートワーク環境でも業務が滞りません。freeeワークフロー、ジョブカンワークフロー、SmartDB、Garoonなどを導入し、稟議、経費精算、休暇申請、契約承認などの全ての決裁プロセスをオンライン化します。紙の決裁書に押印する必要をなくし、全てデジタル上で完結させます。2020年当時行政改革担当大臣だった河野太郎氏が推進したハンコ廃止運動や、COVID-19パンデミックによるリモートワークの普及が、日本のデジタルトランスフォーメーションを加速させています。紙とハンコの文化が根強い組織では、経営層の強いコミットメントが必要です。法的に押印が必要な書類(契約書など)については、電子署名サービス(DocuSign、クラウドサイン)を活用することで、オンライン化が可能です。
システム間連携APIの整備により、手作業でのデータ転記を排除します。新規にシステムを導入する際は、REST APIやGraphQL APIが提供されていることを必須要件とします。既存システムでAPI連携機能がない場合は、ベンダーに機能追加を要求するか、APIを提供する別のSaaSへの移行を検討します。管理者画面からCSVファイルをアップロードするだけでは、自動連携が実現できず、手作業でのデータ転記が必要になります。iPaaSやRPA(Robotic Process Automation)を活用し、システム間のデータ連携を自動化します。API連携を実現するには、APIの仕様理解、認証・認可の設定、エラーハンドリングなど、一定の技術的知識が必要ですので、情報システム部門または外部のシステムインテグレーターと協力して実装することが現実的です。
満足度測定と継続的改善により、ITサービスの利用価値を最大化します。四半期ごとに従業員アンケートを実施し、情報システムへの満足度と利用度を測定します。また、システム利用申請から承認までのリードタイム、ソフトウェアインストール申請から完了までのリードタイムなどの定量指標も継続的に計測します。測定結果を情報システム部門と共有し、改善施策を検討・実施します。満足度アンケートだけでは主観的な評価にとどまりますので、利用率やリードタイムといった定量的な指標も合わせて測定することで、客観的な改善が可能になります。
カテゴリ内クライテリアの解説
CORPORATE-6-1: 従業員の情報システムへの満足度と利用度、申請から承認までのリードタイムなどの指標を継続的に測定し、改善に生かしているか。
目的: 従業員の情報システムへの満足度を測定し、申請から承認までのリードタイムを短縮することで、業務効率を向上させることです。
実装のポイント: 四半期ごとに従業員アンケートを実施し、情報システムへの満足度と利用度を測定します。また、システム利用申請から承認までのリードタイム、ソフトウェアインストール申請から完了までのリードタイムなどの定量指標も継続的に計測します。測定結果を情報システム部門と共有し、改善施策を検討・実施します。満足度が低い原因や、リードタイムが長い原因を分析し、業務プロセスの見直しやシステムの改善につなげます。
注意点: 満足度アンケートだけでは主観的な評価にとどまります。利用率やリードタイムといった定量的な指標も合わせて測定することで、客観的な改善が可能になります。また、測定だけでなく、結果に基づいた改善アクションが重要です。
CORPORATE-6-2: SaaS間の自動連携を目的としたサービス(iPaaSやLow Code系ツールなど)を導入しており、業務の自動化や効率化をするためのBPR活動を事業部主体で実行しているか。
目的: SaaS間の自動連携を実現し、業務の自動化と効率化を事業部主体で推進することです。
実装のポイント: iPaaS(Zapier、Make、Workato)やLow Code系ツール(kintone、Power Automate、AppSheet)を導入し、SaaS間のデータ連携を自動化します。たとえば、Salesforceの商談情報をSlackに通知する、Google Formsの回答をスプレッドシートに自動転記する、GitHub Issuesの更新をJiraに反映するといった連携を、エンジニア以外の事業部メンバーでも実現できるようにします。BPR(Business Process Re-engineering)活動を事業部主体で実行し、業務プロセスを根本的に見直し、効率化を図ります。
注意点: ツールを導入するだけでなく、事業部門が主体的に業務改善に取り組む文化を作ることが重要です。情報システム部門に依存するのではなく、現場が自らツールを活用して業務を最適化することで、スピード感のある改善が実現します。
CORPORATE-6-3: 業務に合わせて社内のシステム開発を行うのではなく、デファクトなSaaSなどの利用を行い、そのツールに業務自体をフィットさせているか。
目的: 社内システム開発ではなく、デファクトスタンダードのSaaSを利用し、業務自体をツールにフィットさせることです。
実装のポイント: 業務システムを開発する際、まずデファクトなSaaS(Salesforce、kintone、Workday、Concur、freeeなど)で実現できないかを検討します。コスト削減や管理を目的とした業務、社会課題としてすでに解決策があるものはSaaSの利用を推奨します。SaaSに業務をフィットさせることで、導入コストと保守コストを大幅に削減し、常に最新機能を利用できます。一方、売上や利益の増大を生み出すもの、自社事業の競争優位につながるものについては、独自にシステム開発することが戦略的に正しい選択となります。
注意点: すべてをSaaSに置き換えることが目的ではなく、戦略的に競争領域と非競争領域を区分することが重要です。競争領域は内製し、非競争領域はSaaSを活用するという方針を明確にすることで、限られたリソースを効果的に配分できます。
CORPORATE-6-4: 表計算やプレゼン資料などはすべてクラウド上で共同編集できるようになっているか。
目的: 表計算やプレゼン資料をクラウド上で共同編集できる環境を整備し、コラボレーションを促進することです。
実装のポイント: Microsoft 365やGoogle Workspaceを導入し、ExcelやWordではなくExcel Online、Google Spreadsheet、Google Docsなどのクラウドツールを標準とします。Dropboxなどのクラウドストレージ上にExcelやPowerPointのファイルを共有するだけでは、同時編集ができず、バージョン管理が煩雑になります。クラウド上で複数のユーザーがリアルタイムに共同編集できることが重要です。議事録、企画書、分析資料などを全てクラウド上で作成・共有することで、情報の透明性とコラボレーションの効率性が向上します。
注意点: クラウドツールへの移行は、従来のExcel文化に慣れた従業員にとって抵抗がある場合があります。段階的な移行と、十分なトレーニング、サポート体制の整備が必要です。また、既存のExcelマクロがクラウドツールでは動作しない場合もあるため、移行計画を慎重に策定する必要があります。
CORPORATE-6-5: 自身のスマートフォン、または貸与されたスマートフォンを用いて、会社の予定・メール・コミュニケーションツールなどを利用できるか。
目的: スマートフォンから会社のツールにアクセスできる環境を整備し、モバイルワークを実現することです。
実装のポイント: 従業員に会社支給のスマートフォンを貸与するか、BYOD(Bring Your Own Device)として個人のスマートフォンから会社のツールにアクセスできるようにします。メール、予定表、コミュニケーションツール(Slack、Teams)、ドキュメント、承認ワークフローなどを、スマートフォンアプリやモバイルブラウザから利用できるようにします。日経BPコンサルティングの調査によれば、DX時代のモバイル法人利用は増加傾向にあり、総務省白書でも働き方改革とICT利活用の関連性が示されています。
注意点: セキュリティ対策として、MDM(Mobile Device Management)の導入、二要素認証の設定、リモートワイプ機能の整備などが必要です。また、BYODの場合は、個人情報と会社情報の分離、プライバシー保護なども考慮する必要があります。
CORPORATE-6-6: 決裁書類がワークフローツールだけで完結しない。(アンチパターン)
目的: 決裁書類を全てワークフローツールで完結させ、紙とハンコの文化を廃止することです。
実装のポイント: ワークフローツール(freeeワークフロー、ジョブカンワークフロー、SmartDB、Garoonなど)を導入し、稟議、経費精算、休暇申請、契約承認などの全ての決裁プロセスをオンライン化します。紙の決裁書に押印する必要をなくし、全てデジタル上で完結させます。2020年当時行政改革担当大臣だった河野太郎氏が推進したハンコ廃止運動や、COVID-19パンデミックによるリモートワークの普及が、日本のデジタルトランスフォーメーションを加速させています。
注意点: 紙とハンコの文化が根強い組織では、経営層の強いコミットメントが必要です。法的に押印が必要な書類(契約書など)については、電子署名サービス(DocuSign、クラウドサイン)を活用することで、オンライン化が可能です。
CORPORATE-6-7: サポート切れの古いバージョンのOSやブラウザでしか動作しないツールが使われている。(アンチパターン)
目的: 最新のOS・ブラウザを使用し、セキュリティリスクを最小化することです。
実装のポイント: 社内の全システムが最新のOS(Windows 11、macOS最新版、最新のLinuxディストリビューション)と最新のブラウザ(Chrome、Edge、Firefox、Safari)で動作することを確認します。サポート切れの古いバージョンのOSやブラウザでしか動作しないツールがある場合は、ツールの更新またはリプレースを計画します。ERPの一部機能が古いブラウザでしか動作しない場合は、ベンダーに対応を要求するか、別のSaaSへの移行を検討します。
注意点: レガシーシステムの刷新には時間とコストがかかりますが、セキュリティリスクと従業員の生産性低下を考慮すると、投資対効果は高いです。段階的な移行計画を策定し、優先度の高いシステムから順次対応していくことが現実的です。
CORPORATE-6-8: 業務で利用しているシステムにシステム間連携を目的としたAPIが用意されていない。(アンチパターン)
目的: 全ての業務システムにAPI連携機能を持たせ、システム間の自動連携を実現することです。
実装のポイント: 新規にシステムを導入する際は、REST APIやGraphQL APIが提供されていることを必須要件とします。既存システムでAPI連携機能がない場合は、ベンダーに機能追加を要求するか、APIを提供する別のSaaSへの移行を検討します。管理者画面からCSVファイルをアップロードするだけでは、自動連携が実現できず、手作業でのデータ転記が必要になります。iPaaSやRPA(Robotic Process Automation)を活用し、システム間のデータ連携を自動化します。
注意点: API連携を実現するには、APIの仕様理解、認証・認可の設定、エラーハンドリングなど、一定の技術的知識が必要です。情報システム部門または外部のシステムインテグレーターと協力して実装することが現実的です。
参考資料・ツール
参考書籍・記事
- Microsoft 365を使った共同作業に関するマイクロソフトのサポートページ: クラウド上での共同編集の方法、バージョン管理、共有設定などが詳しく解説されています。
- 日経BPコンサルティング「携帯電話・スマートフォン"法人利用"実態調査2020」: モバイルデバイスの業務活用、BYODの導入状況、セキュリティ対策などの実態調査です。
- 総務省白書(2017)「第4章第2節 働き方改革とICT利活用」: リモートワーク、テレワークにおけるICTツールの重要性と、日本の現状が示されています。
- NHK政治マガジン 河野太郎のデジタル戦略に関する記事: ハンコ廃止運動、デジタル化推進、COVID-19パンデミックによる加速などが詳しく報道されています。
関連するツール
- クラウドオフィススイート: Microsoft 365、Google Workspace。表計算、文書作成、プレゼン資料をクラウド上で共同編集できます。
- iPaaS(Integration Platform as a Service): Zapier、Make(旧Integromat)、Workato、Tray.io。SaaS間の連携を自動化します。
- Low Codeツール: kintone、Power Automate、AppSheet、Bubble。コーディング不要で業務アプリケーションを作成できます。
- ワークフローツール: freeeワークフロー、ジョブカンワークフロー、SmartDB、Garoon。稟議、経費精算、休暇申請などをオンライン化します。
- 電子署名サービス: DocuSign、クラウドサイン、Adobe Sign。契約書などの押印をオンライン化します。
関連するフレームワーク
- BPR(Business Process Re-engineering): 業務プロセスを根本的に見直し、再設計することです。SaaSに業務をフィットさせることで、従来の非効率なプロセスを刷新できます。
- API-First戦略: システム設計の段階からAPI連携を前提とし、他システムとの連携を容易にする設計思想です。これにより、将来的なシステム拡張や置き換えが柔軟になります。
- モバイルファースト: スマートフォンでの利用を前提にシステムを設計する思想です。これにより、場所を選ばない働き方が実現します。