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04_生成AIのサービス組み込み
顧客体験の向上と新たな価値創造
生成AI技術は、単なる業務効率化ツールに留まらず、顧客に直接提供されるサービスやプロダクトそのものを進化させる原動力となっています。
本章では、DX Criteriaワーキンググループが実施したヒアリングおよびリサーチに基づき、先進企業がどのように生成AIを自社サービスに組み込み、ユーザー体験の向上や新しい価値の創造を実現しているのか、具体的な事例を交えて紹介します。

1. 既存サービスへのAI機能追加
多くの企業では、まず既存のサービスにAI機能をアドオンする形で導入を進めています。これにより、ユーザーは慣れ親しんだインターフェースの中で、AIによる新しい利便性を享受できます。
- コンテンツ生成支援によるユーザー負担軽減:
- GMOペパボ株式会社は、EC支援サービス(カラーミーショップ, minne, SUZURI)において、ChatGPT APIを活用したマーケティング文章生成機能を提供。商品情報を入力するだけで、SNS投稿文や商品説明文をAIが自動作成し、ショップオーナーの作業時間を大幅に削減しました (GMOペパボ、AI(ChatGPT)を活用したマーケティング支援機能を提供開始)。ホスティングサービス「ロリポップ!」では、サイト概要を入力するとAIがHTML/CSSを生成し、Webサイトを自動作成する機能も提供しています。連絡・集金サービス「GMOレンシュ」でも、箇条書きからお知らせ文を生成するAIアシスタント機能により、スクール運営者などの負担を軽減しています (GMOペパボ、AI活用の第二弾を提供開始)。
- ファインディ株式会社は、エンジニア向け転職サービス「Findy」で、ChatGPTを活用したレジュメ(職務経歴サマリ)自動生成機能を業界に先駆けてリリース。GitHub等の情報を基に、わずか20秒でAIが魅力的な経歴を作成し、ユーザーの負担を軽減しました (業界初、ChatGPTを活用したレジュメ自動生成機能)。
- 合同会社DMM.comは、イベント事業者向けにAIライティング支援サービス「Writing Partner」を提供。プレスリリースやメルマガなど、企業コンテンツ作成をAIが支援します (DMMイベントテクノロジー、AIライティング支援サービス「Writing Partner」提供開始)。
- ユーザーインタラクションの高度化:
- ファインディ株式会社は、レジュメ自動生成に続き、ChatGPTと対話しながら職歴を作成できる「ChatGPTからインタビュー受けてみた」機能も導入。AIとの対話を通じて、より自然な形で情報入力やサービス利用を促進しています (BRIDGE掲載記事)。
- 株式会社LayerXは、請求書処理SaaS「バクラク請求書」や経費精算SaaS「バクラク経費精算」に、AI-OCRとLLMが連携して、申請を自動作成する機能などを提供しています (LayerXにおけるAI・機械学習技術の活用事例)。
- 株式会社リンクアンドモチベーションは、主力の従業員エンゲージメント向上クラウドサービス 「モチベーションクラウド エンゲージメント」に、サーベイ結果の動画化や、AIによる組織改善アドバイス提供(チャットボット形式)などの機能を実装し、顧客へのレポーティングや改善提案を強化しています。
- クリエイティブ支援:
- GMOペパボ株式会社のグッズ作成サービス「SUZURI」では、Stability AI社の画像生成AIと連携した「スリスリAIラボ」機能を提供。ユーザーがテキストでアイデアを入力するだけで、AIが画像を生成し、オリジナルグッズのデザインに利用できます (立案からリリースまでの開発プロセスを大公開!画像生成AIを使ってTシャツを作る機能「スリスリAIラボ」ができるまで)。
- その他
- ファインディ株式会社は、生成AI普及後の採用トレンドにあわせて「生成AI活用状況」を確認・検索できる機能を追加しています。(【新機能発表】IT/Webエンジニアの転職サービス「Findy」企業の「生成AI活用状況」を求人票へ反映!マッチングを加速。生成AIの普及によるエンジニアの新たな採用トレンドに対応)
2. AIネイティブな新サービスの開発
既存サービスへの機能追加だけでなく、生成AIの能力を最大限に活かした、全く新しいコンセプトのサービス開発も活発化しています。
- 対話型AIロボット:
- 株式会社MIXIが自社開発する会話AIロボット「Romi」は、独自の会話AIに加え、ChatGPT API(現在はGPT-4o)を活用した「アシスタントモード」を搭載。日常会話の相手としてだけでなく、情報検索やアドバイス提供も可能にしています (癒やし系会話AIロボット「Romi」、ChatGPTを活用した新機能搭載)。さらに視覚認識機能を持つ新モデルも登場し、AIとのより自然なインタラクションを実現しています (〖会話AIロボット「Romi」〗新モデル「Romi(Lacatanモデル)」予約販売を開始)。
- 業務特化型AIプラットフォーム:
- 株式会社Algomaticは、営業AIエージェントの「アポドリ」、採用AIエージェントの「リクルタAI」、「DMM GAME翻訳」音声合成の「にじボイス」、AI Transformation支援を行う「Algomatic AI Transformation」などさまざまな業界特化AIエージェントを提供しています。また、各サービスにおいてお客様の事業成果に直結する事例ができています。(キーパーソンとの有効商談率78.5%/エージェント経由だけでは難しかったビジネスコンサルタントの採用に成功)
- GMOペパボ株式会社も、自社の顧客対応で培ったAIチャットボットのノウハウを活かし、中小企業向けのAI問い合わせ対応支援ツール「GMO即レスAI」をサービス化しました (GMOペパボ、中小企業向けAI導入支援 「GMO即レスAI」を提供開始)。
- エンタープライズ企業向けのAIプラットフォーム:
- 株式会社LayerXは、エンタープライズ企業向けのAIプラットフォーム「Ai Workforce」を開発・提供。AIに業務を教えることが簡単になり、ナレッジやデータの活用が飛躍します。独自のプロフェッショナルサービスを掛け合わせ、エンタープライズ企業が全社横断で高度にAIを活用できる環境を実現します ("業務の自動運転"で"経済活動をデジタル化する")。
3. サービス組み込みにおける技術的アプローチ
サービスへのAI組み込みには、様々な技術的アプローチが用いられています。
- 外部APIの活用: OpenAI API (ChatGPT, GPT-4o), Stability AI APIなどが、多くのサービスで基盤技術として利用されています。これにより、自社で大規模モデルを開発せずとも、最新のAI機能を迅速にサービスに導入できます。
- RAG(検索拡張生成): 社内ドキュメントや独自データベースなど、外部APIが学習していない情報を参照して回答を生成する技術です。ファインディ株式会社、GMOペパボ株式会社、合同会社DMM.com (DMM.博士 通信 Vol.2 - 分散型RAGサテライトシステムの構想)、株式会社LayerX、株式会社Algomatic、株式会社MIXI、株式会社リンクアンドモチベーションなど、多くの企業でナレッジ検索やQ&A機能に応用されています。
- 独自AIモデルとの連携: 株式会社MIXIの「Romi」のように、長年培ってきた独自の会話AIエンジンと、最新の汎用LLM(ChatGPT)を組み合わせることで、サービスの独自性(キャラクター性や対話の自然さ)と汎用的な知識・応答能力を両立させるハイブリッドアプローチも有効です。
- AI-OCRとの連携: 株式会社LayerXの「バクラク」シリーズのように、取り込んだ非構造化データ(請求書など)をAI-OCRとLLMが連携し、解釈・構造化し、システム入力可能な形式に変換する組み合わせも、業務効率化に大きく貢献しています。
4. サービス組み込み特有の課題と考慮事項
生成AIを顧客向けサービスに組み込む際には、特有の課題や考慮事項が存在します。
- 精度と信頼性 (ハルシネーション対策): AIが誤った情報を生成するリスクへの対応は最重要課題です。
- 株式会社LayerXは、ユーザーに確認を促すUI設計や、必要に応じて人間が介在する仕組み (Human in the Loop) を重視しています。
- 株式会社リンクアンドモチベーションも、AIの回答を鵜呑みにせず、人間によるファクトチェックを行う運用を基本としています。
- 株式会社Algomaticは、複数の本番サービスを提供しており、LLMから望ましい結果を得るために人間の評価だけではなく、AIによる評価も運用に組み込んでいます。(LLMのシステム導入時に行いたい動作検証について/LLM評価ツールpromptfooとアサーションの解説)
- UXデザイン: AIとの対話や機能利用を、ユーザーにとって自然でストレスのない体験として設計する必要があります。
- ファインディ株式会社の「ChatGPTからインタビュー受けてみた」機能は、対話形式で情報入力を支援するUXの好例です。
- 株式会社MIXIの会話AIロボット「Romi」は、独自の会話AIだけでなく、動きや表情の変化などノンバーバルなコミュニケーションと組み合わせることで会話のテンポ感を向上させ、AIとの自然なインタラクションを追求しています。
- 倫理・安全性: 不適切なコンテンツ生成の防止、個人情報・機密情報の保護、AIによるバイアスの排除などが求められます。
- 株式会社MIXIは、ユーザーコンテンツのAI学習への利用禁止を明記したポリシーを策定しています (生成AIに対するポリシーについて : mixi2 ヘルプ)。
- 株式会社Algomaticは、プライバシーデータを扱うサービスもあり、情報漏えいによるセキュリティリスクやハルシネーションによるレピュテーションリスクなど、新たな問題への対応に取り組んでいます。(責任あるAI開発に向けたLLMアプリケーションの品質保証の取り組み)
- 各社とも、API利用時のデータ非学習設定や、機密情報のマスキング、アクセス制御などの対策を講じています。
- コストとスケーラビリティ: API利用料やインフラコスト、大量のユーザーアクセスに対応するためのスケーラビリティ確保も重要な検討事項です。
- 価値設計の難しさ: 単にAI機能を導入するだけでなく、AIによってどのような新しい価値を創出し、それをどのようにユーザーに提供するかという「価値設計」自体が難しい課題となります。
- 価値創出・効果測定の難しさ: AI導入が必ずしも直接的な売上向上などのビジネスインパクトに結びつくとは限らず、その効果を定量的に測定することも容易ではありません (GMOペパボ株式会社, 合同会社DMM.com)。
- 価値定義の難しさ: 部分的な機能改善にとどまり、AIがあることを前提とした新しいサービス全体の価値を定義したり、ユーザーが本当に求めている価値を見極めたりすることが難しい場合があります (GMOペパボ株式会社, ファインディ株式会社)。
まとめ
生成AIのサービス組み込みは、単なる機能追加を超え、顧客体験を根本から変革し、新たなビジネスモデルを生み出す可能性を秘めています。商品説明文の自動生成から、対話型AIロボット、業務特化型プラットフォームまで、その活用範囲は多岐にわたります。
成功の鍵は、最新のAI技術を迅速に取り込むスピード感と、精度・UX・倫理・コストといった課題への地道な対応の両立にあります。外部APIの活用、RAGによる独自データ連携、独自AIとのハイブリッドなど、技術的なアプローチも多様化しています。
先進企業の事例は、生成AIをサービスに組み込むことで、いかにユーザーへの提供価値を高め、競争優位性を築くことができるかを示唆しています。今後、AIと人間のより自然な協働が進むことで、私たちの生活や働き方を豊かにする革新的なサービスが次々と登場することが期待されます。