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02_業務効率化と創造性向上
エンジニアだけではない従業員全般の活用法
生成AIは、エンジニアリング業務だけでなく、あらゆる職種の従業員の働き方を大きく変える可能性を秘めています。本章では、ヒアリングおよびリサーチに基づき、先進企業が生成AIをどのように日常業務に取り入れ、効率化や創造性向上を実現しているかを紹介します。チャットツール、ワークフロー自動化、ナレッジ活用、会議支援など、具体的な活用シーンを見ていきましょう。

1. コミュニケーションと情報収集の相棒としてのAI
多くの企業で、生成AIはまず「対話」を通じて従業員の日常業務に入り込んでいます。アイデア出しの壁打ち相手から、高度な情報収集ツールまで、その活用範囲は多岐にわたります。
- チャットツールとしての日常利用:
- ファインディ株式会社では、Google Workspaceに含まれるGeminiやNotebookLMを全社員が利用可能な状態にしています。加えて、ChatGPT-4をラップした社内Slackボット(理解しにくい専門用語をカレー屋に例える、生成AIの意外な使いどころ)も用意されており、個人の利用頻度や目的に応じて使い分けられています。
- GMOペパボ株式会社は、Slack上で利用できるChatGPTラッパーを作成し、日常的に使うツールへの組み込みによって利用を促進しました。(日本初!?「Vibe Coding研修」を2025年新卒研修の目玉として実施します)
- 株式会社リンクアンドモチベーションでは、思考整理や文書生成にChatGPTチームプラン(全社員にアカウント発行)、情報収集にPerplexity(一部部門)やGenSpark、DeepResearchなど、目的に応じて複数のツールを使い分けています。ChatGPT ProやClaudeも一部の専門職を中心に利用されています。
- 株式会社LayerXは、新しいツールを早期に申請ベースで利用可能にし、その後ChatGPTチームプランやGemini、NotebookLMを全社員に提供。その後いくつか見直ししながら申請ベースでChatGPT ProやDevinなども利用可能としています。
- 合同会社DMM.comもChatGPTチームプランやGeminiに加え、社内開発のSlackボット(DMM.博士)など複数のツールを組み合わせて活用しています。
- 株式会社Algomaticでは、カンパニーごとに多種多様なAIツール(ChatGPT ProClaudeも広く使われています。
- 株式会社ログラスでは、Geminiを全社に、Cusorを全エンジニアに配布するほか、Devinなどを部署ごとに申請ベースで導入・利用しています。
- 株式会社MIXIは、2023年4月に社員向け施策としてChatGPTの有料版「ChatGPT Plus」の利用料を3カ月間補助し、全社員・契約社員による積極的な活用を後押ししました。また、Azure OpenAI Serviceを利用した社内チャットシステムも展開し、文書作成支援などに活用しています (MIXI、ChatGPTの有償版「ChatGPT Plus」の利用料金を3カ月間補助 | TECH+(テックプラス))。更に、2025年3月にはChatGPT Enterpriseを全従業員対象に導入しました(MIXI、ChatGPT Enterpriseを全従業員に導入)
- 情報収集・リサーチ・アイデア創出支援:
- 単純な質疑応答だけでなく、新しいアイデアのブレインストーミング相手として、あるいは思考を整理するための壁打ち相手として生成AIを活用する例が各社で見られました。
- 株式会社リンクアンドモチベーションでは、情報収集に特化したPerplexityのようなAI検索エンジンも活用し、リサーチ業務の効率化を図っています。
- 合同会社DMM.comの担当者からは、「未知の領域を探索する際、複数の論文や資料を比較検討するのにAIが役立つ。主張の違いや要点を整理してくれるため、理解や意思決定のスピードが向上した」という声も聞かれました。
2. ナレッジマネジメントと情報共有の促進
社内に蓄積された情報(ナレッジ)をいかに効率的に活用するかは、多くの企業にとって課題です。生成AIは、文書検索や問い合わせ対応の自動化を通じて、この課題解決に貢献しています。
- 社内ナレッジベースとの連携 (RAG):
- 検索拡張生成(RAG)と呼ばれる技術を用い、社内ドキュメントや過去のQ&AデータなどをAIに読み込ませ、それに基づいた回答を生成する取り組みが進んでいます。
- ファインディ株式会社では、顧客向け公開Q&AデータをCSVで取り込み、社内ナレッジボットを構築。カスタマーサクセスチームなどが顧客対応や製品知識の確認に活用し、社内で最も使われるツールの一つとなっています。
- GMOペパボ株式会社は、Slackボットを通じてNotionやGitHub Issueの内容を検索・参照できるRAGシステムを構築しました。
- 合同会社DMM.comでは、社内Slackボット(DMM.博士)が社内データを参照し、入館証発行手続きの自動化やSlack上の長文やり取りの要約などを行っています。
- 株式会社LayerXは、営業による電話後の文字起こしが自動的に行われ他の人が電話した内容も検索できるツールや、メール自動生成機能などを社内で開発。
- 株式会社Algomaticは飲食のお客様向けに提供しているAIアバターを社内の知財としても保有、活用している。AIアバターは、顔認識、音声認識、音声合成により質問に対して、RAGによりに音声合成で回答するシステム。また、法人向けプラットフォーム「シゴラクAI」も、「ドキュメントQ&A」機能により、アップロードされた社内文書に基づいた回答生成を可能にしています (ChatGPTを安全かつ簡単に使える「シゴラクAI」、社内ドキュメントを基にAIが回答を生成する「ドキュメントQ&A」機能を提供開始)。
- 株式会社MIXIも、Azure OpenAIを利用した社内チャットシステムで検索拡張生成(RAG)を用いた社内ドキュメント検索機能を提供しています。
- 一方で、株式会社ログラスは、MCP (Model Context Protocol) などを試験的に利用しているものの、組織横断的なナレッジベース連携は本格実施には至っておらず、Notion AIもコスト観点で見送るなど、導入には慎重な姿勢も見られます。
- 会議・議事録作成の効率化:
- 会議の録画・録音データから自動で文字起こしを行い、さらに要約まで作成するツールの活用が多くの企業で進んでいます。
- 株式会社リンクアンドモチベーションや株式会社Algomaticでは、tldvやTactiqといったツールを導入し、「議事録を手動で取らなくなった」というレベルまで活用が進んでいます。
- ファインディ株式会社では、NotebookLMを活用した録音からの議事録作成をCTOが主導し、詳細な手順書を共有することで普及を促進しました。
- GMOペパボ株式会社では、nottaを利用して会議の要約を作成しています。
- 株式会社ログラスも様々なAI議事録ツールを試した結果、Google Meet標準の書き起こし機能を活用しています。全社にGeminiを配布したことで、要約機能の活用も進んでいます。
- このように、ツールは様々ですが、会議内容の記録・共有にかかる時間を大幅に削減する取り組みが共通して見られます。
3. ワークフロー自動化と定型業務の効率化
生成AIは、単なる対話ツールにとどまらず、定型的な業務プロセスそのものを自動化・効率化する力も持っています。特に、ワークフローツールとの連携や、非エンジニアによるツール開発支援が注目されています。
- ワークフロー自動化ツール (Dify, n8n等) の導入と活用:
- プログラミング不要でAIを活用した業務フローを構築できるツールの導入が進んでいます。
- 株式会社リンクアンドモチベーションは、Difyやn8nを積極的に活用。メール返信案作成、資料テンプレートへの情報入力・整理、目標設定レビュー、誤字脱字チェックなど、全社で100種類以上のワークフローが作成・共有されています。特筆すべきは、コンサルタント自身がDifyを用いて業務改善ツールを開発する「全コンサルタントをDifyエンジニアに育成する」という目標を掲げ、高度な活用を推進している点です (リンクアンドモチベーションにおけるDify民主化への取り組み)。
- 株式会社Algomaticでは、事業を立ち上げる際に同時に業務効率化も推進します。例えば、商談の動画から、音声書き起こし、議事録生成、フォローアップメール送付などのワークフローを自動化しています。また、Dify、n8nなどのワークフローツールも全社的に活用され、その知見はクライアントワーク(基盤構築)にも転用されています。(なぜDifyなのか)
- ファインディ株式会社やGMOペパボ株式会社もDifyを利用しており、ファインディ株式会社では主にSlackボット連携や社内ツール作成に、GMOペパボ株式会社では社内導入が進んでいます。
- 合同会社DMM.comは、Difyのコミュニティ版(セルフホスティング)を検証中で、将来的な全社展開も視野に入れています。
- ドキュメント・資料作成支援:
- 報告書や提案資料、メール文面などの作成補助も一般的な活用例です。
- 株式会社リンクアンドモチベーションでは、Gammaのようなプレゼンテーション作成支援ツールも活用されています。またDifyを活用して独自の資料作成支援ツールの作成も開発しています。
- 合同会社DMM.comのカスタマーサポート部門では、メール問い合わせへの回答文作成支援や、社内ルール準拠チェック、フォーマット統一などにAIを活用し、オペレーター負荷軽減と品質均一化を実現しています(DMM.comの生成AI活用事例 23卒新入社員がAI推進を主導 問い合わせ業務を月163時間削減した裏側)。
- 非エンジニアによる自律的な効率化:
- 生成AIの支援により、プログラミング経験のない従業員が自ら業務を効率化する動きも見られます。
- 株式会社Algomaticでは、「非エンジニアがAIに聞きながらGAS(Google Apps Script)を書く」といった事例が自然発生的に広がっています。例えば、Googleカレンダーで商談や採用面談が入るとオフィスの会議室を自動で取得するスクリプトなどはエンジニア以外でも積極的に実装しています。
- 株式会社リンクアンドモチベーションのコンサルタントによるDifyでのツール開発も、専門職が自らAIツールを構築する先進的な例と言えるでしょう。
4. 従業員全般への浸透状況と効果
従業員全般へのAI活用は、ツールの導入だけでなく、いかに日常業務に定着させ、効果を実感してもらうかが重要です。
- 利用率と定量・定性効果:
- 株式会社リンクアンドモチベーションでは、パイロット導入したコンサルティング専門部署で「1日に1回以上AIを利用する社員」が96%に達し、同部署の従業員一人当あたりの売上が前年比約140%の成果を創出。業務時間も約25%削減されるなど、顕著な成果を上げています (コンサル・クラウド事業において生成 AI の活用を本格化)。
- 株式会社LayerXの内製営業支援ツール「Sales Portal」は、MAU(月間アクティブユーザー率)89%、DAU(日間アクティブユーザー率)約60%と極めて高い利用率を誇り、営業生産性1.5倍(目標2倍)を達成しています (with 生成AIで営業生産性を倍増させる、LayerXの内製プロダクト Sales Portalの現在地)。
- 定性的な効果としては、情報探索時間の短縮、資料作成の効率化、アイデア出しの活性化、さらには未知の分野に関する情報収集・比較検討の効率化などが挙げられています。
- 浸透における課題と今後の展望:
- 一方で、全社的な浸透には課題も残ります。
- GMOペパボ株式会社では、ツールの利用頻度に大きな格差(べき乗分布)が見られ、活用が進んでいるのは一部の「新しいもの好き」な層が中心であると分析しています。今後は、活用のボトルネックとなっている業務導線などを洗い出し、全社的なAI活用基盤の構築を促進していきます。
- ファインディ株式会社のCTOも、「『使いたければどうぞ』では推進が進まない」「マインドセットの変革や心理的ハードルの低減が必要」と指摘しており、マネージャー層からの働きかけの重要性を強調しています。
- 今後の展望としては、単なるツール導入に留まらず、「意識せずともAIが業務プロセスに組み込まれている状態」を目指す声が多く聞かれました。タスクに着手する際にまずAIに相談する思考プロセスへの変革や、AI活用を前提とした業務フローの再設計が重要になると考えられます。
まとめ
従業員全般の業務における生成AI活用は、チャットでの相談相手から始まり、情報収集、ナレッジ共有、会議運営、資料作成、そしてワークフロー自動化へと、その応用範囲を急速に広げています。
先進企業では、ChatGPTやGemini、Claudeといった汎用的な対話AIに加え、Slackボット、Difyやn8nのようなワークフローツール、さらには特化した内製ツールまで、多様なAIを組み合わせて活用しています。
成功の鍵は、単にツールを提供するだけでなく、経営層からのメッセージ、研修や勉強会、現場での伴走支援、具体的な利用手順の共有、そして時には利用を促す仕組みづくり(Sales Portalのような業務必須ツールへの組み込みなど)を通じて、従業員のAIリテラシー向上と「AIを使うのが当たり前」という文化の醸成にあると言えるでしょう。
これらの事例は、これからAIを全社的に活用しようと考えている企業にとって、導入すべきツールや具体的な活用方法、そして組織への浸透策を検討する上で、貴重な示唆を与えてくれるはずです。